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「チブスじゃないです。医者は何とか言っていたですが、まあ看病疲れですな。」
「ホリョ?」
男は始めにびつくりさせられて、今さう聞くと多少のみこめて来た様子であつた。どこも悪くないと云はれたこともうれしかつたらしい。房一はその腕をひつぱつて顕微鏡の前につれて行き男にのぞかせた。
云はずと知れたことだ、といふやうに徳次はそのきよろりとした眼を上げて小莫迦こばかにした風に小谷を眺めた。大きい麦藁帽子を被つているので、小谷のやさしい顔立ちはひどく女らしく見えた。
半シャツの男は房一の前に来て、はじめてお辞儀らしい格好をした。
「ジョン、そら!ウシ!」
と、房一は急いで頼んだ。加藤巡査は一瞬、不安な面持をした。が、房一の態度が決然としていたのと、急策としてはそれより他にないことも明かだつたから、直ちに承諾を与へた。
今さつきまで誰もいなかつた通りの、ずつと先きの方から黒い人影が歩いて来るのである。袴をはいて小さな風呂敷包か何かを抱へている、そのやはり背高な、直立したまま急ぎ足に歩く恰好はまぎれもない町役場の書記の今泉だつた。
と、横合から老父の道平が房一に寄り添つて来た。
房一は面喰つて、ぽかんと口を開けた。
風はすつかり途絶えていた。
「それは惜しかつたですな。私などとちがつて学資の心配はなかつたでせうし」
「ふむ。悧巧者だな、お前は」