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「なに?競馬のこと?」
「それあ、もう、掘つても掘つても屑みたいなものしか出ないつて云ふんだがね。まあ、天領の時分に良いところはそつくり掘り上げてしまつたんだらうね。その山をまだ見所があるつて云ふんだから、あてになるやうなならんやうな話だあね」
「失礼ですが、もしか、あなたは高間さんではありませんか」
「すると、何ですか、十年契約といふやうなことにでもなすつたんですか」
「はあ!さう――ですね」
印袢纏の背の高い男がその時、半シャツの男に向つて目くばせをした。
「おい、今高間君が来ていたんだよ」
「ちつとも知りませんでしたよ」
「その首はどんな顔をしていた」と、友達のひとりが訊いた。
だが、そのとき、この野心の塊かたまりのやうな若い医者に前もつてたゝみこまれていたさまざまな思案が頭をもたげた。この機会をのがしてはならないぞ、さう思ふのといつしよに房一は急に形をあらためた。
時々、澄んだ甘い柔味のある、痩せたすんなりした身体つきを想像させるやうな盛子の声が、はじめは稍張りのある調子で起つて、途中で何かしらはにかんだやうに細く聞えがたくなり、又時々ピツと語尾が跳ね上るやうになつて響いて来た。それは身体の動きとは別に、声そのものが絶えずどこかに柔かくくつついたり離れたり、又そこらを歩きまはつたりしているやうであつた。
正文はその傍に近づきながら、他の用事で来たついでのやうに云つた。